県大の研究人!<キワメビト>~イマとコレマデとコレカラと~Vol.13

キワメビト第15号竹岡真菜さん、第16号赤塚結さん、第17号古閑遙祢さん、第18号山口大空さん(環境科学部環境建築デザイン学科4年生)、第19号竹井蒼真さん(環境科学研究科環境計画学専攻博士前期課程1年生)

人の心と地域に寄り添う「空間」を創造する

人の暮らしに欠かせない「衣・食・住」。なかでも、住まいや職場といった建築物、そしてその立地は、簡単には変えることのできない生活の基盤です。大井研究室では、建築の構造や機能にとどまらず、人の行動やふるまい、心理に与える影響までを見据えた空間を設計するための学びを深め合っています。

Q.取り組んでいる研究について教えてください
  • 竹井
    私は、分散型ホテルのあり方について研究しています。学部の卒業制作では、歴史街道に面する旧い建物の保存と改修手法について研究し設計を行いました。その際、地域のあらゆるところに空き家や放置された伝統的な建物があることを知りました。これらを活用する方法の一つとして、分散型ホテルという取り組みがあります。分散型ホテルは、街全体をホテルとして使い、空き家を客室として使う取り組みです。大井研究室では、滋賀県東近江市でプロジェクトが立ち上がっていて私も参加しています。そして、歴史的建造物や街並みの改修設計を通じて、地域の魅力を高め活性化させる方法を学びたいと思います。
全員で
左から順に竹岡さん、竹井さん、大井先生、
赤塚さん、古閑さん、山口さん
  • 竹岡
    私は災害地における建築のあり方について研究しています。その理由は、東北大震災の時、有名な建築家が複数人集まって、仮設住宅に住む人々の交流の場を作り、地域の助け合いの輪を広げたという事例を知って、非当事者である私にできることを考えたいと思うようになったからです。2024年に地震があった能登半島で3週間ほど過ごし、観光客の立場では知り得ない街の人々の生活を深く知ることで、建築の観点でできることを考えていきたいと思います。
  • 赤塚
    私は、建築物そのものより、公共空間の使われ方に興味があります。都市の公共空間では、当初計画されたように人が活用されているものと活用されていないものがあります。グラングリーン大阪「うめきた公園」を訪れたとき、まるで都会のオアシスのように人々がくつろいだり会話を楽しんだりしているのを見て、違和感にも似た衝撃を受けました。大学の周りでこんなふうに活用されている公園はあるだろうか、うめきた公園とは何が違うのか、そんな疑問が湧いてきたのです。公園に限らず公共の「使われる空間」と「使われない空間」を観察してそれらの共通点や差異を見つけ、今後の設計に活かしていきたいと思います。
  • 古閑
    私は、実家がある神戸市に坂が多いことから着想を得て、斜面地という地理的制約の中でどのように住宅が建てられ、人々の生活空間が形成されてきたのかを研究することにしました。特に、斜面地住宅地の「階段」に注目したいと考えています。階段は、私有地のものと公道のものが地図や見た目からでは判断できないものが多いのです。そして、斜面地住宅地の区画と高低差は必然的に階段を生み出し私有地と公道を曖昧にしていることに着目し、住民の移動やコミュニティにどのような影響を与えているのか考察したいと思います。
  • 山口
    私は日本の国会議事堂の建築のあり方について研究したいと考えています。日本では、長年の中央集権的な仕組みから、現代において国の中枢機関および権威を分散していくべきという動きが生まれています。歴史の中で国会議事堂がどんな意味を持ってどのように使われてきたのかを調べ、権威を顕示するような構造や内装が今の日本の民主主義に合っているのかを問い直したいと思います。もともと政治に興味があったというのもありますが、卒業制作という自由にテーマを決められる機会に、国会議事堂という生涯きっと取り扱い得ないものについて設計を考えてみたいと思い、このテーマにしました。
Q. ゼミを選んだ理由は?
  • 竹井
    私は、学部4年生の時に玉田研究室で伝統的建造物の保存について研究しました。その一環で、石部図書館の改修プロジェクトに参加し、図面を起こし既存建物の旧い部分と新しい部分の組み合わせを考えているうちに、設計の観点を深めたいと思うようになりました。そして、大井先生のレトロフィット建築を学びたいと思い、大学院で大井研究室を志望しました。
  • 竹岡
    私が建築の世界に憧れたのは、古い家のリノベーションやリフォームを行うテレビ番組がきっかけです。元の家の状態による制約を受け入れ、活用して、人々を感動させる建築物を作るというのは、大井先生のやっているレトロフィットに近いと感じました。また、オープンラボで滋賀での様々な取り組みについて紹介していただき、在学中に地元の人と話して滋賀の魅力を吸収したいと思ったのも理由です。
  • 赤塚
    環境建築デザイン学科では、1年生から設計演習の授業があり、演習で作った設計作品に対して先生方にアドバイスをいただく講評会が行われます。その時に大井先生にいただいた言葉ですごく納得できる、刺さるものが多くありました。建築は感性で評価し合う側面もあるので、大井先生とは感性が合いそうだと思いました。実際、私が興味を持つ「環境が誘発する人の行動」や「知覚心理」を研究するにあたって、対話しながら深掘りしてくださっています。
  • 古閑
    私は、幼いときにテレビ番組をきっかけに建築家を目指し始め、工業高校の建築科に入学しました。それから大学まで建築を学んで7年になります。大井先生も工業高校の建築科出身でいらっしゃるので、将来の相談をしたときにとても親身になって考えてくださいました。環境建築デザイン学科なので、建築環境工学や建築設備分野について学びを深めることも考えましたが、7年間の集大成としてやはり卒業制作に取り組みたいと思い、大井先生のもとで学ぶことにしました。
  • 山口
    建築系大学の設計分野の多くの先生は、教育者、研究者、建築家の三つの顔を持っていると思います。学生目線で、大井先生はどの面においてもいい先生だと思っています。教育者として学生に丁寧な態度を一貫されますし、建築家としても自身の事務所を持っていろんな建築物を手掛けられてきました。そして何より、レトロフィット建築の研究で、建物の大きさや建材、窓の形、階数など、建築の要素から分析して最適解を導こうとする科学的なアプローチが面白いと思い、大井研究室にしました。
Q.先生にヒトコト!
  • 竹井
    大学院から受け入れていただき、ありがとうございます。せっかく院に入ったので、一級建築士の資格取得を目指しつつ基礎知識を深めたり、好きなことを追求したりしたいと思います。また、院生ですが私が一番後に入った学生でもあるので、先生のことをもっと知りたいです。
  • 竹岡
    研究室に入って、真面目なだけではなく楽しいことがお好きな人柄だと気づきました。そんな先生だからこそ、地域とつながったり、学生の私たちが楽しく研究できたりするのだと思います。私は、建物だけでなく、人々が自分らしく生活できるような暮らしそのものを提案できる存在になりたいと思っています。なので、先生のもとで学びながら、色んな人と関わっていきたいです。卒業まで、たくさん楽しいことをご一緒させてください。
  • 赤塚
    私は、環境建築デザイン学科で学ぶうちに、空間の中で生まれる人の生活に興味があることに気づきました。卒業研究が前期後期論文になるか前期論文後期制作になるかは、まだ自分でもわかりません。こういったモヤモヤした状態でも、先生は暖かく話を聞いてくださるので頼りにさせていただいています。これからもよろしくお願いいたします。
  • 古閑
    私は卒業するまでに、自分のやろうと決めたこと、自分が言ったことは、やれるように力をつけたいです。就職先も、自分の力で仕事をやりきる姿勢や、実のある勉強と資格取得を重要視しています。卒業制作で賞をとることを目標にして、努力していきたいと思います。残すところあと1年を切っていますが、大井研究室で充実した研究生活を送って、いい学生生活が送れたと思えるように頑張ります。
  • 山口
    いつも研究について親身になって話を聞いていただきありがとうございます。私は、大学院進学を希望しているので、卒業制作を頑張りつつ、院で研究したいことを見つける1年にしたいと思います。引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。

担当の先生に研究インタビュー!環境科学部環境建築デザイン学科大井鉄也先生

時の流れを味方に、空間と人の営みをデザインする

単なる復元(原)や補修ではなく、「生かす」建築技法を目指す20251209_設計演習II15.jpg

私は、建築に進路を決める際、時代の流行にとらわれない普遍的なものがひそかに継続していて、現代においてその重要性を感じていたのかもしれません。

私は、幼い頃から絵画や工作といったものづくりが好きでした。小中学校でも積極的に取り組んでいました。そして、中学3年生の進路選択で建物をつくることに興味があり、彦根工業高校の建築科に進学しました。高校生になってからは、特に建築設計の授業に魅力を感じて、設計製図の課題に多くの時間を費やし、いくつか設計競技にも参加しました。その中で、建築デザインに魅力を感じ、建築家という職業について意識が向いていったのだと思います。そして、高校3年生になって、当時、建築科長で建築計画を担当されていた先生から、当時開学したばかりで、内井昭蔵先生が環境建築デザインを教えている滋賀県立大学の環境建築デザイン学科(当時、環境計画学科環境・建築デザイン専攻)の進学を勧められ進学を決めました。

滋賀県立大学のキャンパスは、全体計画をマスターアーキテクトとして内井先生が担い、共用棟や各学部棟の建物のデザインをブロックアーキテクトとして複数の建築家が担う「マスターアーキテクト方式」でデザインされています。また、内井先生は、当時、建築家として多くの公共建築の設計を手掛け活躍する一方で、大学で建築家教育・研究にも取り組むプロフェッサーアーキテクトとして素晴らしい方であり、当時の私にとって憧れの存在でした。

滋賀県立大学に入学して、学部3年生の後期からゼミ配属があり、内井研究室を志望しました。そして、卒業制作で、同級生の丹治健太君と「安土山遺跡ミュージアム ―遺跡の現在―」というテーマで設計に取り組みました。今思うと、この頃から歴史的に旧い建物や空間を対象にデザインすることが好きだったのだと思います。そして、このことは、私が現在取り組んでいる研究テーマである「レトロフィット建築に関する研究」につながっています。当時、安土城の復元を希望する声が世間に広がっていたのですが、安土城郭調査研究所の方々にヒアリングすると安土城が当時どのように建っていたのかを現在の安土山の遺構から探求することそれ自体がロマンであり現代において復元すること自体を望んでいないようでした。そこで、私たちは、「建築や場所の時間を過去のある一点に戻すことはできない。復元を否定して、後補のデザインをすべて受け入れて現代を組合せる」ことを提案しました。ここでいう後補のデザインというのは、長い時間を経て形成された安土山の人工や自然の営みを含めたすべての創造行為を指しています。この作品は、滋賀県立大学の卒業制作で優秀賞をいただき、関西6大学ランドスケープデザイン賞をいただきました。また、「近代建築2001年」に選出・掲載され高く評価していただきました。

滋賀県立大学大学院を修了後は、内井昭蔵建築設計事務所、遠藤克彦建築研究所にて約9年の建築設計の実務経験を経て、自身の設計事務所を開設し建築活動を行ってきました。また、東京大学生産技術研究所、国士舘大学理工学部理工学科建築学系にて教育研究に取り組んできました。そして、2025年4月に本学の教員に着任し環境建築デザインを教えています。

そして、遠藤克彦建築研究所に勤務していた頃に、設計を担当させていただいた「東京大学生産技術研究所アニヴァーサリーホール」(2012年竣工/設計者:東京大学生産技術研究所今井公太郎+遠藤克彦建築研究所)の設計で、旧いものと新しいものを馴染ませるデザインについて深く考えるようになりました。そして、この設計をきっかけに、この建物を設計された東京大学生産技術研究所の今井公太郎教授のもとで研究員として「レトロフィット建築に関する研究」に取り組みました。そして、2017年に東京大学大学院工学系研究科建築学専攻博士後期課程に進学し、2020年に「日本の近代レトロフィット建築における設計条件と設計解の因果関係に関する研究」と題する論文で博士号を取得しました。

受け継がれたものが未来を照らす

建物を設計することは、人の暮らしや体験を設計することでもあります。人をよびたい、長く滞在してほしい、長く住んでほしい、地域からそういった要望があれば、私たち建築家にできることを提供したいと思っています。

現在、東近江市の五個荘で取り組んでいるプロジェクトは、まさにそういったプロジェクトになりそうです。現在、全国的に、歴史的建造物を活かして街全体が宿泊施設とする例が増えています。そして、五個荘でも歴史的建造物をホテルのレセプションや宿泊として再利用し、地域に根差した習慣や行事を宿泊客が体験できるような魅力的なプログラムを組み込むような取り組みがなされています。大井研究室では、近隣の空き家となった建物で宿泊以外の機能として、様々なテーマを設定して地域の方々と共創できる工房・アトリエ、イベントスペースをつくって、街全体でアクティビティを促すデザインができればと考えています。

また、大井研究室では、今年の4月5日に完成したJR木ノ本駅の「豊臣大返しステーション!」の歴史展示プロジェクトに取り組みました。このプロジェクトでは、令和8年1月より大河ドラマ「豊臣兄弟!」が放送されることに伴い、豊臣秀吉、秀長兄弟の主要な出来事の一つである「賤ケ岳の戦い」のロケーションである長浜市木之本町のJR木ノ本駅構内において、賤ケ岳の戦いの歴史と周辺に広がる砦の実空間とを重ね合わせた展示をデザインしました。具体的には、地理的分布(空間)やそれらの砦で戦った戦国武将(人間)、そこで起きた出来事(時間)といった「三間」について、JR木ノ本駅構内の窓から見える風景(実空間)と重ね合わせた展示デザインとなっています。こうした実空間展示とすることで、来館者や観光客は、まずJR木ノ本駅で賤ケ岳の戦いの歴史の知識を得て窓から見える砦のある木之本の風景を認識するとともに、砦をはじめとした周辺に広がる木之本の歴史的街並みといった実空間を街歩きにより体験し理解を深めてもらうことで観光振興にも寄与すると考えています。

このように、大井研究室では、代々受け継がれてきた旧い建物や空間とのレトロフィットを実現することで、人々の体験を生み出す「設(しつらえ)」を設計提案し続けたいと思っています。

260405-豊臣大返しオープニング_集合写真_メインポスター.jpgJR木ノ本駅に設置された「豊臣大返しステーション!」のメインポスター
260405-豊臣大返しオープニング_北側展示_5.jpegJR木ノ本駅のコンコースの窓から見える現在の風景と、その窓から見える「賤ケ岳の戦い」の砦でくりひろげられた出来事に対応した歴史展示パネル
260405-豊臣大返しオープニング_西側展示.jpeg「賤ケ岳の戦い」の陣営の規模や向き、出来事を時系列で示した模型展示
アクリルの円盤の色が羽柴軍と柴田軍、円盤に記載された槍が軍勢の向き、円盤の大きさが軍勢の規模、円の高さが戦況の時系列を示し、3次元方向に戦況の移り変わりがわかるようになっている。

町屋街道の設計.jpg
2025年度大井研究室江花葵さんの卒業制作作品「北国街道木之本宿における歩車共存と滞留空間の可能性」。
道路を一車線にし、空き家となった町家の土間空間を開放し歩道と一体化して活用する歴史街道の再整備計画。

260701-USP_オフセット町家.jpg

【学生さんに一言!】

建築家は、「なりたいです」と言ってなれるものではないと思っています。きっとどんな職業もそうですよね。ここで重要となるのは、建築家になるためのチャンスをものにするために、日々努力を続け準備することだと思います。自分がやりたい仕事を担当できれば、やり遂げた時に成長を実感すると思います。しかし、チャンスがもらえないことも往々にしてあります。他の仕事をしながら生活をつなぐ時もあるでしょう。それでも、いずれ来るチャンスのために高い目標を立てて努力を続け準備することが大事なのです。目標を変えたり、努力をやめたりせずに、目標を達成するために自分に約束をする。楽なことではありませんが、在学中は教員に頼りつつ、諦めずに一歩一歩進むことが皆さんの夢を叶えることにつながると思います。