県大の研究人!<キワメビト>~イマとコレマデとコレカラと~Vol.11

キワメビト第13号杉本るみなさん(人間文化学部生活デザイン学科4年生)

ものづくりの背景からブランドをデザインする記事写真_杉本さん.JPG

あの店のバッグが欲しい、このレストランでランチがしてみたい。バッグの形や色、食べたい食材ではなく、「ブランド」が私たちの購入意欲を高めることがあります。ブランドを選ぶ理由は人それぞれ。しかし、作り手の思いやこだわり、会社としての歴史が人に伝わった時、消費者の共感や応援する気持ちを生むのかもしれません。杉本さんは、家業を継ぐときに自分にできることを、プロダクトデザインにとどまらないブランディングの観点から考えています。

Q.ゼミを選んだ理由は?

生活デザイン学科には、住居、道具、服飾、構想の4分野があり、2年生から演習をとって専門分野を深めていきます。私の場合は構想分野を選びました。構想分野には2名の先生がいらっしゃるのですが、塚本先生は自身のデザイン会社をやられていたので、プロダクトを作って人々に届ける経験も豊富です。私は、構想を表すような具体的なプロダクトを卒業制作で出したいと思い、塚本先生のゼミを選びました。

Q. 取り組んでいる研究について教えてください

私の実家は、「一の井」というデニムバックやデニム小物のオリジナルブランドを営んでいます。工場を構えて大量生産するのではなく、家族とミシンの職人さんと共にこだわりの詰まった一点ものの製品を作り、お客さんに届けています。なので、私にとってデニム小物の製作現場は身近なもので、高校生の時から「鯖」をモチーフに仕立てた財布などを作っています。今では、自然と実家を継ぐことを意識している自分がいます。

私の実家の家業のように、特別なこだわりを持ってモノを作る会社はブランディングが重要です。学部3年生の時はブランディングについて勉強しました。ブランディングと市場におけるポジションの関係や、他者との差別化について、事例を調べながら知見を広げました。そして、自社が何にこだわっているかを明確にし、こだわりの背景にあるストーリーがブランドになることがわかってきました。

学部4年生になってからは、自分が家業をどのようにブランディングできるかを具体的に考えていて、塚本先生に方針の壁打ちをしたり、面白い他社事例を紹介してもらったりしています。「一の井」(家業)は、祖父が創業してから職人気質の叔父が一点ものの修繕事業とともに、デニムバッグの製作を始めました。日本経済の変遷とともに事業形態を変え、今では硬いデニム生地を縫うことができる職人の技を看板にバッグを百貨店に並べるようになりました。しかし、自分が継いだときには、叔父が確立した職人技を打ち出す方向とは違う、新しいブランドストーリーを作っていくべきではないかと思います。たとえば、私が高校生から作ってきた「鯖」の財布やキーケースのようなアニマルモチーフの小物やチャームを作って、愛着を持ってもらえる商品が作れたら良いのではないかと思います。デニムは時間と共に変わる色や生地の風合いを楽しむ、持ち主が「育てる」ものでもあります。まるでペットのように、お気に入りのチャームを育てていくことを通してデニムに親しんでもらう、ブランドを気に入ってもらえるのではないかと思います。バッグは値段やデザインでどうしてもターゲットが限られますが、チャームなら老若男女問わず手が届きやすいですし、親しみやすいのではないかと思います。このように、デニムに親しむ入り口を広げるようなブランドを今までのラインから派生して作っていくと良いのではないかと、今は考えています。ブランドロゴも、ぱっと見で親しみやすさを感じるものに変えたりすると良いかもしれません。

鯖キーケース3.jpeg
鯖財布.jpeg

杉本さんがデザインした鯖のキーケース(左)と財布(右)

Q.先生はどんなお人柄?

気さくで、親しみやすい方です。ゼミの中ではフレンドリーに雑談をする延長で1週間の進捗報告をするので、柔らかく、楽しい雰囲気でディスカッションができます。先生もゼミ生同士もとても仲がいいので、ゼミTシャツを作れたら、なんて話も上がっているぐらいです。また、先生はとてもお忙しい方なので、自主的・自律的に制作を進めるように口酸っぱく言われます。先生が制作を手伝うような状況にならないように、自分でやり切ることを意識し続けることが大事です。

Q.この一年の意気込みを教えてください

私は、実家のブランディングを卒業制作のテーマとして決めるまでは時間がかかりました。テーマを決めてからは順調ですが、卒業するまでに思い描いたことの全て出し切って、悔いが残らないようにしたいです。また現在、就職活動も力を入れています。家業を継ぐ前に社会人経験を積むことで、さまざまな業界を知ったり、物事を考える視点を得ることができると思います。なので、不動産系や自治体など、あえて「モノ」ではなく「コト」をデザインする業界に身を投じてみたいです。卒業制作も就活も、目標に向けて日々挑戦を積み重ねていきたいと思います。

Q.先生にヒトコト!

いつも相談に乗ってくださり、ありがとうございます。卒業制作に向けてこれから頑張ります。展示発表の場で、塚本ゼミから面白い学生が輩出されたと他の先生にも驚いていただけるくらい、良いものを作りたいです。

担当の先生に研究インタビュー!人間文化学部生活デザイン学科塚本カナエ先生

記事写真_塚本先生.JPGデザインを通じて人々に美しい生活を

女性デザイナーとして生きる世界を拡げる

私がデザイナーを志したのは、小学生の頃です。はっきりといつからかは覚えていませんが、卒業文集には「インテリアデザイナーになりたい」と書いていました。絵を描くのが好きで、中学生の時には美術部に入り、美術の先生とよく話していました。中でも、油絵の先生が語ってくれたアメリカ雪駄の旅の話が印象深く、アメリカのポップアートの旗手であるアンディ・ウォーホルの絵画の話などを聞くと、世界の広さとアートの可能性を感じました。女性が多い高校の美術科とは一転して、大学に入るとプロダクトデザイン学科には女性が30人中7人しかいませんでした。このことからも分かる通り、プロダクトデザインは当時の日本では女性にとって肩身の狭い業界でした。しかし、美しいものを知り、自分の手でつくりたい。プロのデザイナーになりたい。その志が学生時代の私を突き動かしていました。その学科はみんながその思いでやっていました。大学生の間にインドやネパールに行って数週間過ごしたり、中国の雲南省に少数民族の暮らしを見に行ってみたりして、日本とは違う景色、現地の歌や踊り、人々の生活に刺激をもらったのもいい経験です。

3年生時に一つの企業で製品デザインをするか、デザイナー事務所に入るか、フリーランスのデザイナーになるかで迷いました。同じデザイナーでも全く働き方が異なります。私は大学を卒業してすぐ家電メーカーに就職し、製品デザインを担当しました。そして当時の女性のキャリアアップの難しさを目の当たりに。頑張り過ぎている先輩方の姿は脅威でした。それでデザイン事務所に転職をしたのですが、こちらも当時は厳しい業界でした。行政や企業に頼まれた仕事の納品に追われ、デザインと報告書の作成で夜を明かすことも多かったです。

そんな時、大学の時の指導教員が、スウェーデン留学の経験をとても楽しそうに話していたことを思い出しました。幸いフィンランド政府や企業の奨学金に採択いただけたので、フィンランド、イギリスへと渡航。留学先では、現地の陶芸やガラス工芸などについて学びました。帰国後、兼ねてよりしたかったフリーランスのデザイン事務所を設立。食器のデザインがコアにあるので、「テーブルの上からその周辺へ」というコンセプトで日用品の製品開発を中心にブランド構築や商品戦略などのデザインワークも行っています。それから芸術系大学などに非常勤講師として声をかけてもらうことが増え、滋賀県立大学に着任して本格的に大学教員としてのキャリアも始まりました。もちろん、私生活や家族のこともおざなりにはできませんから、時間がいくらあっても足りない日々です。しかし、やりたいことはたくさんあるので、諦めず、少しずつ前に進みたいと思っています。

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塚本先生がデザインしたダストクリーナー

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魔法瓶の会社と作った保温鍋(左)と、Maison et Objets(パリで開催される日用品見本市)に展示された様子(右)

美しいモノを生み出せる人の視点

いいデザインとは、美しいデザインとは何か。それを評価する感覚を育てることも重要だと思います。デザインは基本的にはより多くの人々に共感を得られるものであることが重要です。さらに、プロダクトデザインは華美であればいいわけではなく、確かな機能に加えて、「所有する喜び、使う喜び」がないといけないと思っています。例えば、生活雑貨のブランドMUJIはシンプルなのになんとなく使いやすいデザインと機能がある商品が多いですよね。私の授業では、良いデザインを評価する視点を持ってもらうことを意識しています。例えば、学内の敷地を歩いてもらって、写真を撮ってもらいます。写して欲しいのは、「デザインの種」となるものです。この課題では、環濠を埋め尽くす花筏や木漏れ日の差す並木道など、景色の美しさや、「映える」ことを求めていません。何かに使えそうな形や面白い形を見つけることです。いわゆる、流行りのものや誰もが可愛いと思うハートやリボンのモチーフを見つけることとは違うので、何度も繰り返しやっていくうちに目が育つと良いなと思っています。また、説明しにくい感覚でもあるので、私自身も、普遍的なデザインの美しさとは何かを言語化することの困難さを感じています。

デザインは、たくさんの意見や考えを吸収して、整理して、多数の人の共感を得られるような形で目的を達成する、複雑なものだと思います。配属当初は、杉本さんがやりたいことを私の研究室の中でどうやって実現するかを考えねばなりませんでした。家業のブランディングといってもやり方は色々あるので、方針が定まらない時期もありました。しかし、今は的確な視点を持って他社のブランディング事例の分析をし、自分の方向性を洗練していると思います。卒業制作でやることは、自分の人生でよみがえる機会が何度もあります。彼女のように自分のデザインを世に送り出せる機会がある学生も、そうでない学生もいると思いますが、大学での学びを通して人々の生活を少しでも美しく輝きのあるものにできるよう活躍して欲しいですね。

【学生さんに一言!】

学生さんに対してお伝えしたいことがあるとすれば、総体的には、『まずはやってみよう、それから考えることもできますよ。』と言うことです。全員に当てはまるとは思いませんが、先に怖がる人が多いような気がしています。それは、取り越し苦労を抱えて損をしている可能性があります。チャレンジの向こうには越えたときにだけ見える景色が拡がっているかもしれません。まずはやってみる気持ちを持った、パワーのある面白い学生さんの姿を見たいと思っています。