県大の研究人!<キワメビト>~イマとコレマデとコレカラと~Vol.10
キワメビト第12号中島博貴さん(工学研究科先端工学専攻博士後期課程1年生)
温度分布の変化から、流体の動きを予測する
私たちは太陽の暖かさや風に当たる感覚から、熱や空気の流れの存在を感じることができます。しかし、目に見えないため、物理現象としてどのような秩序を持ち、環境を形作っているのかを簡単に理解することはできません。物体の表面に沿って発生する複雑な流れを物体表面の温度変化から推定することに挑戦してきた中島さんは、2026年4月、博士後期課程という新しいステージに一歩踏み出しました。
Q.取り組んでいる研究について教えてください
私は、乱流熱伝達という現象について研究をしています。乱流は簡単にいうと大小さまざまな渦が複雑に入り乱れた流れのことで、特に,物体の表面近くでは特徴的な渦構造が熱の輸送を担っています。例えば、風に当たると体温が奪われて涼しく感じる現象も、体の周囲で発生した渦によって熱が効率よく運ばれることで生じています。このように、乱流熱伝達は私たちの身の回りでも広く見られる現象です。一方で,自動車エンジンをはじめとする、産業用の熱流体機器内部にも乱流は発生していて、壁面での熱伝達現象がエネルギー効率に大きな影響を与えています。私の研究では、壁面の熱情報を手がかりに壁近くの流動状態を推定することで、熱伝達と流れの様子を同時に評価することを目的としています。
一般的に、流れの可視化には風洞装置内にトレーサーと呼ばれる小さな粒子を流し、レーザーを照射して、粒子の動きをカメラで撮影・追跡する手法が用いられています。この方法では流れの詳細な情報を取得できますが、大がかりで高価な装置が必要になるほか、エンジンのシリンダ内部のような密閉空間内の流体をモニタリングするには制約が大きいという課題があります。そこで私が研究しているのが、壁面で測定した熱情報のみから流体の速度を推定する方法です。具体的には、通電加熱したチタン箔上に風を流し、赤外線カメラでチタン箔を撮影すると箔上に温度差のパターンが浮かぶので、それを追跡することで流速を推定します。
推定した速度が本当に実際の流れを反映しているのかも検証しました。壁面近くでは流体の粘性(流れにくさ)の影響が強く、流速や乱れの大きさは小さいですが、表面から高さ方向に離れていくに従って粘性の影響が弱まり、流速や乱れの強さが徐々に大きくなります。(粘性が大きい順に壁面から、「粘性低層」、「遷移層」、「乱流域」と呼ばれる三つの層に分けられます。)赤外線カメラから得られた壁面の熱情報から、流体の速度を予測し、どの層の流体の動きを捉えているのかを確かめたところ、流速や乱れが大きくなり始める、「遷移層」の様子を観測しているようだということがわかりました。この結果は先行研究の結果と比較して、おおむね妥当であるということがわかり、壁面の情報のみから、物理的に妥当な流速を推定できることが示されました。
実験では、カメラのシャッタースピード、距離、絞り、レーザーの設置位置など測定条件の細かい調整に苦労しましたが、目に見えない熱や流体の流れがデータから分かってくると、とても面白いです。
流れの推定方法として、赤外線カメラ以外にも、センサで得られた局所的な信号のみから流速を推測する方法も試しています。この実験は始めたばかりなのですが、センサが小型で赤外線カメラよりも応用範囲が広いと考えられることから、こちらの手法での乱流の評価も実現したいと考えています。
中島さんが実験で用いた風洞装置と観測に用いた装置(上)
実験で得られたチタン箔の温度変化を示す赤外線カメラ像(下左)トレーサー粒子の動きから予測される空気の流れ(下右)

加熱壁面からの距離に対する流速および流れの変化過程
Q. 研究室を選んだ理由を教えてください
学部生の頃、出島先生の伝熱学の授業を受けたのがきっかけです。授業の最後に、伝熱に関する最新の研究を紹介していて、この分野の面白さを感じると同時に、研究活動そのものへの関心が高まりました。
その授業の中で、大学院に進学し、修士、博士として研究を主体的に回していくことの面白さを語ってくださった時がありました。その時に、研究者になるという生き方を知り、1つのことに没頭しやすい自分の気質が活かせそうだと感じ、興味を持ちました。授業終わりによく質問しに行っていたので、その中で出島先生に研究職に興味がある旨を伝えたことを今でも覚えています。それからは出島先生の研究室に入れるように日々の授業や、院試勉強に取り組み、今に至ります。
Q.博士後期課程に進もうと思った理由を教えてください
出島先生の研究室を選んだ時点で博士後期課程への進学に興味は持っていましたが、進学は慎重に検討しました。修士1年になったころ、先生に、「博士課程進学を視野に入れるなら英語で論文を執筆しよう」と声をかけてもらって、研究内容を英語論文にまとめて投稿しました。執筆中のいろんな経験が博士後期課程に進学してもやっていけるのではないかと考える大きなきっかけになりました。
もう一段階、決断を後押しする機会となったのが、「日本機械学会若手の会」が主催するコースドクター交流会に参加したことです。進学志望者、博士課程進学者、企業の方、大学教員の先生方などが集まる会で、それぞれの立場から博士号を取得することの意義について考えを共有したり、博士号取得後の進路についての情報交換をしたりしました。この交流会で様々な背景を持つ人達の話を聞くうちに、進学に対する不安が和らぎました。
Q.先生はどんなお人柄?
先生はとてもアクティブな人です。月に一回学生と飲み会をしたり、昼休みに野球をしていたりと、学生に劣らず常に活動的です。研究室でも、よく学生の様子を見にきて話しかけてくれます。研究を始めた当初は僕から解析結果が出るたびに先生に声をかけていたのですが、自分で論文を読んだりして研究を進められるよう四苦八苦しているうちに、先生から声をかけてもらうことが多くなりました。最近は自分の殻に閉じこもっている気もするので、もう少し自分から相談に行ったほうが良いのではないかと思い始めています。
Q.先生にヒトコト!
3年間、ご指導いただきありがとうございます。先生のおかげで、修士まで濃密な研究生活が過ごせました。今後、研究を頑張るだけでなく、いろんな分野の人と交流して知見を深め、一人前の研究者に成長していきたいと思います。これからも先生のお力を借りる場面がたくさんあるかと思いますが、どうぞよろしくお願いいたします。
担当の先生に研究インタビュー!工学部機械システム工学科出島一仁先生
モノとモノ、ヒトとヒトの間で伝わっていく「熱」
研究を楽しむ背中を追いかけて
私はエネルギーの有効利用などを考える「エネルギーと動力分野」で、物体間の熱の交換について研究をしています。研究者を目指したきっかけは、指導教員とその背中を追いかける博士課程の先輩の存在でした。学部生で研究室に配属された直後は、大学教員になろうとは考えておらず、就職して会社員をやるつもりでした。私は博士課程の先輩の後続になる研究テーマをもらったため、博士課程の先輩と関わる中で「博士」として生きる人間がいかに楽しそうに研究をしているかを間近で見ることができたのです。そんな先輩の姿に触発され、博士課程に進学しました。現在は、先輩も同じ分野でアカデミアの研究者として活躍されており、共同研究や学会で交流が続いています。
私にとって先輩の存在はとても大きいのですが、先輩も、私も、強く刺激を受けたのが当時の指導教員の先生です。研究は、お金かけて誰も持ってないサンプルや装置を使えば、新しい知見を得ることができます。しかし、私の先生は常にアイデアで勝負し続ける人でした。磐石な基礎知識から湧き出る新しいアイデアに、「その手があったか」という悔しさすら感じさせられるのです。また、先生は相当忙しかったはずですが、時間を見つけては自分で装置を組んだり実験をしたりしている人でした。地に足をつけて研究を進める、気になったことは少しでもやってみる。私も、そういった姿勢を大切にし続けたいと思います。
気づけば自分も教員になっていたのですが、時間が許す限り学生さんとコミュニケーションを取ったり、実験に付き合ったりしたいと思っています。本当はどのテーマも自分で実験をしたいのですが、なかなかそうもいきません。しかし、実験に立ち会えない状況でも、私と学生さんの考えていることを共有したり、ディスカッションを深めたりする中で、学生さんにも研究の魅力を感じてもらえたらと思っています。
見えないものに向き合い、一歩一歩進み続ける
熱は目に見えないことが魅力です。見えないからこそセンサから得られる情報からいろんな動きを想像することができます。
私の技術的な強みは、独自のMEMSセンサ(マイクロレベルの機械的構造と電子回路が統合されたセンサ)を使って高温高圧条件下における空間分解能、時間分解能の高い温度情報を得られることです。センサとなる金属微細構造を金属基板に形成することで、従来のシリコンウエハ基板のものでは破損してしまうような環境への適用を実現しました。
この技術に限らず、熱の動きの可視化に関する研究を幅広く展開しており、中島さんの研究では赤外線カメラを使っています。熱は温度の高いところから低いところへと伝わりますが、流れの状態によってその伝わるスピードが大きく変化します。よって、熱の伝わりを詳しく調べるためには、熱だけでなく流れの様子を知る必要があります。しかし、これら両方を同時に測るのは大変です。なので中島さんの研究では、熱を測るだけで、流れの状態も一緒にわかるようになる、そんな技術の開発を行っています。

温度検出に用いるMEMSセンサ(シリコン基板)
私は、大きい山を登るような長期的で巨大な目標を掲げるより、一歩ずつ目の前のことを進めていくタイプかなと思っています。研究にしても、最初に大きな目的があってそれを実現するための方法を考えるよりは、自分が持っている知見や技術を何に使えるかという考え方をしています。ですが、博士号を取った時に一つだけ、「博士課程の学生を育てたい」という研究者人生の中での目標を抱きました。滋賀県立大学を含め全国的に博士後期課程に進学する人は少ないですが、大学教員として、研究を楽しむ心と高度な専門知識や技術を持つ人を増やすことに貢献したいと思い続けてきました。その目標が、中島さんの博士後期課程進学により、半分叶いつつあります。もちろん、たくさんの学生さんに博士後期課程へ進学してもらえれば良いのですが、進学を決断することは簡単なことではありません。中島さんの勇気と研究への熱意に応えて、私も共に成長していきたいと思っています。
【学生さんに一言!】
研究室に入るまでは授業を一生懸命頑張ってたくさん単位を取るといいと思います。焼肉の食べ放題とおなじで、授業料はいくつ授業をとっても変わりません。生涯でこれほど学びにお金と時間を費やすことができる時はありませんから、「食えるだけ食っておかないと勿体無い」と思います。
研究室に入って研究を始めると、大抵のことはうまく進みません。実験なら10回やってうまくいくのが1、2回あれば良い方です。しかし、何度もトライアンドラーを繰り返すと、目の前で起きている事象や研究そのものの奥深さを感じられるようになってきます。奥深さを感じられるところまで頑張ると研究が楽しくなって、作ったサンプルや組んでみた装置が可愛らしく、誇らしく感じられるようになります。辛いこともありますが、諦めずに進んだ先に見えるものを信じて頑張ってほしいと思います。




