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環境科学部環境生態学科の刘鑫特任研究員、伴教授らの研究グループが琵琶湖の動物プランクトン動態は地球規模の気象現象に影響されることを明らかにしました

2021年09月30日
 

湖におけるプランクトンの長期的な動態解析を行った事例は極めて少ないのが現状です。この主な要因は、古くから定期的な観測を行っている湖が少ないことにあります。琵琶湖では、滋賀県水産試験場によって1960年代から毎月、動物プランクトンの定期採集が行われており、過去50年以上に渡って試料が保存されています。つまり、琵琶湖は動物プランクトンの長期変動を解析するための貴重な試料が長年にわたって保存され続けている希少な湖の一つなのです。滋賀県立大学環境科学部環境生態学科の伴修平教授と刘鑫特任研究員は、滋賀県水産試験場などと共同で、同試験場が保管していた標本を分析することによって、琵琶湖で最も卓越する動物プランクトンであるヤマトヒゲナガケンミジンコ(Eodiaptomus japonicus)の餌環境とその成長・生産が過去40年間、およそ10年の周期をもって変動していることを発見しました。そして、この周期性が「北極振動」と呼ばれる地球規模の気象現象の周期性に極めて良く一致することを明らかにしました。さらに、この周期性は1990年以降に見られる温暖化による湖水温度の上昇に伴って弱くなってきていることも分かりました。

 

1.研究の背景と概要

湖沼や海洋における動物プランクトンの研究は、それが始まってからようやく100年程度の、まだ若い研究分野です。従って、その長期変動に関する研究もそれほど多くはありません。これまでに、バイカル湖(ロシア)、五大湖(北米)、レマン湖(ヨーロッパ)など欧米の古くから観測の続けられている湖での研究がほとんどで、極東アジアでの研究例はありませんでした。琵琶湖は日本最大の湖であるだけでなく、過去50年以上に渡って様々な調査が行われ、動物プランクトンの保存試料の充実した、世界的に見ても希な湖の一つなのです。滋賀県水産試験場が保管しているプランクトン試料を分析することによって、動物プランクトンの成長や生産が富栄養化や地球温暖化の影響をどの程度受けてきたのか調べることができたのです。富栄養化とは人為的な栄養塩(主にリン)負荷による植物プランクトンの増殖を意味しますから、動物プランクトンにとっては餌の増加とそれによる成長の促進が期待されます。また、プランクトンは変温動物ですから温暖化による水温上昇はその成長に対してプラスの効果をもたらすと予想されます。

 

研究は、1971年から2010年の40年間に毎月採集された動物プランクトン保存試料を用いて行われました。種毎に動物プランクトンの出現数を計数し、体サイズを測定しました。E. japonicusについては雌成体が抱えている卵数についても計数しました。これらとは別途、実験室で行われた飼育実験によって、餌が潤沢なときの雌成体サイズと水温の関係式が求められました。動物プランクトン採集時には水温も測定されていますから、この水温と実験で得られた体サイズ−水温関係式を用いて湖で成長したE. japonicusの潤沢な餌環境での雌成体サイズを推定することができました。これを、実際に測定したプランクトン試料中の雌成体サイズと比較しました。すると、実測値の方が予測値を大きく下回っていることが分かったのです。これは、琵琶湖において本種は常に餌不足状態にあることを示しています。そして、雌成体サイズの実測値/予測値比は本種の餌量を良く指標することが分かりました。別途、実験室にて様々な餌量で飼育したときの雌成体サイズと成長速度を調べることで、この餌量指標と成長の関係を導くことができました。このようにして、E. japonicus雌成体サイズの実測値/予測値比を用いることによって、本種の餌量インデックス、成長速度、生産量を求め、それらの長期変動を描き出すことに成功したのです。

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図1 琵琶湖北湖における1971年から2010年までの40年間に渡るカイアシ類E. japonicusの餌量インデックス(a)、比成長速度(b)、生産量(c)の変動。赤線はスプライン近似曲線。

 

餌量インデックスの変動は、予想に反して富栄養化の指標である全リン(TP)濃度の変動とは関連せず、また明瞭な季節性も見出すことはできませんでした(図1a)。しかし、明瞭な8年周期を示すことが分かったのです(図2a)。一方、成長と生産は明瞭な季節変動を示しました(図1b, c)。これは、これらが水温に大きく影響されるためですが、この季節性を除去することによって餌量と同様の周期性を見出すことができました。そして、このほぼ10年の周期性は、「北極振動」と呼ばれる北半球での大きな気象現象の周期性と極めて良い一致を示すことが分かったのです(図2b, c)。また、本種の年間生産量は、4〜52 g炭素/m2/年(平均18 g炭素/m2/年)と算出されました。平均値で計算すると、水深20 m以深の琵琶湖沖帯(面積、450 km2)における本種の年間生産量は8100トン炭素/年となります。

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図2 琵琶湖北湖における1971年から2010年までの40年間に渡るカイアシ類E. japonicusの餌量インデックス(a)、北極振動係数(b)、fとAOのコヒーレンス(c)の周期性解析結果。fとAOでは96ヶ月(およそ8年)周期が卓越し(aとb)、それらの間に相関関係がみられるが、1990年以降はその関係が弱くなることが分かる(c)。

 

これらの結果は、琵琶湖で最も卓越する動物プランクトンE. japonicusが栄養塩負荷の増加に伴った植物プランクトンの増殖には応答せず、地球規模の気象現象に影響されていることを強く示唆していました。また、1990年以降の水温上昇に伴って、この周期性は弱くなる傾向を示しました。これは、近年の温暖化がE. japonicusの動態に影響をおよぼす可能性を示唆しています。

 

2.成果のポイント

  • 新しく開発したE. japonicus雌成体サイズの実測値/予測値比が湖での餌指標として有用であること、そしてこれが過去40年間に渡って準十年周期を示すことを発見しました。そして、この周期性は「北極振動」と呼ばれる気象現象の周期性と関連していました。
  • この結果は、動物プランクトンの成長や生産が富栄養化による植物プランクトン量の増加よりも地球規模の気象現象に対して、より強く影響されていることを示しました。
  • 1990年以降の水温上昇がこの周期性を弱めていたことは、温暖化が動物プランクトンの動態に影響を与える可能性を示唆しています。
  • コアユの漁獲量は1990年以降減少傾向を示しましたが、その主な餌となっているE. japonicusの生産は逆に増加傾向でした。このことは、琵琶湖では動物プランクトン生産の不足、即ち餌不足が魚類生産を制限している可能性を否定します。同様の結果は、別途行われた動物プランクトン総生物量の長期変動とコアユの単位努力量当たり漁獲量(CPUE)の解析からも支持されました。動物プランクトン総生物量とコアユCPUEの間には負の相関関係があり、コアユの減少が餌である動物プランクトンの減少に由来するのではなく、逆に、コアユの捕食が動物プランクトン生物量を制限している可能性を示唆しました。

 

3.論文への掲載

本研究成果は、湖沼・海洋研究に関する国際学会(ASLO)の機関誌であるLimnology and Oceanography誌のPublished onlineに2021年9月14日付けで掲載されました(https://doi.org/10.1002/lno.11918)。

Quasi-decadal periodicities in growth and production of the copepod Eodiaptomus japonicus in Lake Biwa, Japan, related to the Arctic Oscillation(琵琶湖におけるカイアシ類Eodiaptomus japonicusの成長と生産にみられる準十年周期、北極振動との関連)

Xin Liu1, Gaël Dur1,2, Syuhei Ban1, Yoichiro Sakai3, Shinsuke Ohmae4 and Takashi Morita4

1)滋賀県立大学:刘鑫、伴修平

2)静岡大学:デュア・ガエル

3)琵琶湖環境科学研究センター:酒井陽一郎

4)滋賀県水産試験場:大前信輔、森田尚

 

別途、動物プランクトン生物量とコアユの関係については、やはりASLO機関誌のLimnology and Oceanography誌65巻の667〜682ページ(https://doi.org/10.1002/lno.11336)に掲載済みです。

Planktivorous fish predation masks anthropogenic disturbances on decadal trends in zooplankton biomass and body size structure in Lake Biwa, Japan.(プランクトン食魚類による捕食は、琵琶湖において動物プランクトン生物量と体サイズ構造にみられる経年変動に対する人為的攪乱を見え難くする)

Liu, X., G. Dur, S. Ban, Y. Sakai, S. Ohmae and T. Morita

 

4.助成を受けた研究費

本研究は、農林水産省委託プロジェクト研究「地球温暖化が水産分野に与える影響評価と適応技術の開発委託事業」、および科学研究費補助金基盤研究A(一般)(18H03961)「栄養塩負荷量と漁業生産の関係:水質総量規制は漁業生産の減少要因か?」の助成を受けて行われました。

 

 

 

 

滋賀県立大学

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