環境科学研究科環境動態学専攻 土田華鈴さん、環境科学部環境生態学科 浦部教授らの研究グループが、外来・交雑オオサンショウウオの寄生虫相を初めて調査して、在来種の寄生虫相との関係を解明しました

2021年09月13日
 

日本固有種であるオオサンショウウオAndrias japonicusは現在、京都など近畿地方を中心に外来のチュウゴクオオサンショウウオA. davidianusとの交雑の問題を抱えています。この外来種問題の影響を総合的に評価するに当たり、外来種が持ち込んだ可能性のある外来寄生虫の定着状況の調査も重要です。しかし、そもそもオオサンショウウオは特別天然記念物として保護されているため寄生虫の研究例は少なく、京都府のオオサンショウウオからは、約80年前に3種の寄生虫が報告されただけです。このほど、滋賀県立大学大学院環境科学研究科環境動態学専攻の土田華鈴さん、同大学環境科学部環境生態学科の浦部美佐子教授、京都大学大学院人間・環境学研究科(兼 同大学地球環境学堂)の西川完途准教授により、京都府の淀川水系から得られた交雑オオサンショウウオ(日本産オオサンショウウオ×チュウゴクオオサンショウウオ)、及びチュウゴクオオサンショウウオの寄生虫相が初めて調査され、その結果、1種の吸虫と3種の線虫の寄生が確認されました。

本研究は京都府におけるオオサンショウウオ類の最新の寄生虫相を解明して、在来オオサンショウウオ個体群の保全のために不可欠な情報を提供しました。

写真左:交雑オオサンショウウオ.jpg
右オオサンショウウオ吸虫.jpg
 

(写真左: 交雑オオサンショウウオ; 右: オオサンショウウオ吸虫Liolope copulans

1.研究・調査等の概要

文化庁の許可を得て、京都府内で捕獲された交雑オオサンショウウオ25個体とチュウゴクオオサンショウウオ2個体の消化管から寄生虫を採集しました。形態観察とDNA塩基配列の情報により種を同定した結果、消化管から1種の吸虫(オオサンショウウオ吸虫Liolope copulans)と、3種の線虫(Amphibiocapillaria tritonispunctati, Falcaustra sp., Spiroxys hanzaki)が確認されました。未同定の種を除いて、本研究で発見されたこれらの寄生虫は、他府県の在来オオサンショウウオから報告された種と同じでした。この中で、L. copulansS. hanzakiは、先行研究においてオオサンショウウオ類固有の寄生虫であることが明らかにされています。一方、1936-1941年に京都府のオオサンショウウオから報告された3種の寄生虫は発見されませんでした。

2.成果のポイント

京都の交雑・外来オオサンショウウオ類から発見された寄生虫は、未同定種を除き全て外来種ではなく、日本の在来オオサンショウウオのそれと同種であることが明らかになりました。したがって、在来のオオサンショウウオを宿主としていた寄生虫が、新たな宿主として交雑・外来オオサンショウウオ類を利用していると考えられます。このように、外来種が、移入された生息地で在来寄生虫の新たな宿主となる現象をスピルバックと言います。このスピルバックが生じると、本来の宿主-寄生虫の間の生態的バランスが変化する可能性が高まります。例えば、新たな外来宿主を獲得したことで在来寄生虫の個体数が大きく増加すれば、在来宿主への感染数も増加して、もともと在来宿主に顕著な負の影響を与えていなかった寄生虫が有害となる可能性があります。現在、スピルバックによる在来オオサンショウウオへの影響の大きさは不明ですが、チュウゴクオオサンショウウオの移入と交雑種の増加はオオサンショウウオ個体群の寄生虫相や中間宿主などを含む河川生態系に何らかの変化をもたらしている可能性が高いと考えられます。

3.論文誌への掲載、受賞、出版物の刊行や講演会等の開催情報

両生爬虫類の国際専門誌であるCurrent Herpetology誌 第40巻(2021年8月25日公表)にオープンアクセス論文 として掲載されました。

書誌情報

Tsuchida, K., Urabe, M. and Nishikawa, K. (2021) The first survey for helminths parasitic in hybrid and introduced giant salamanders, genus Andrias (Amphibia:

Caudata: Cryptobranchidae) in Kyoto, Japan. Current Herpetology 40: 109-119. Doi:

URL:https://doi.org/10.5358/hsj.40.109