大学院環境科学研究科環境動態学専攻(現在客員研究員)古川真莉子さんが第82回日本昆虫学会大会において論文賞を受賞しました

2022年09月27日

2022年9月3日~5日に信州大学で開催された第82回日本昆虫学会大会において、本学大学院環境科学研究科環境動態学専攻に在籍された古川真莉子さん(現在、本学環境科学部客員研究員)が、在籍中の研究により論文賞を受賞しました。

この賞は、Entomological Science誌および昆蟲(ニューシリーズ)誌に2021年に掲載された論文の中から最優秀な論文を2編選んで贈られるもので、古川さんと共著者には賞状が贈呈されました。

論文内容について

題目:Differential performance of contrastive defensive traits of two moth species against bird predation.

著者:古川真莉子・中西康介・本間淳・高倉耕一・松山和世・日高直哉・沢田裕一・西田隆義

概要:古川さんの論文は、対照的な捕食防衛策を採る2種のイラガ(蛾)の急激な入れ替わり現象を、在来天敵である野鳥の効率的な捕食によって説明したものです。

在来のイラガは、ウズラの卵のような硬く、比較的目立つまゆを作る一方、外来のイラガは、柔らかいけれどうまくカモフラージュされたまゆを作ります。天敵である野鳥からみると、在来イラガのまゆは見つけやすいけれどまゆ殻を割って食べるのは困難、一方、外来イラガのまゆは見つけづらいけれど、まゆ殻を割って食べるのは簡単と推定できます。こうした状況で、野鳥にとってどちらのまゆを食べるのが適応的なのかを調べました。最初に、まゆの中身の餌としての質と量を、ヒヨコを使った学習実験で調べ、餌としての質と量はほぼ等しいことを突き止めました。まゆの見つけやすさについては、ヒトをダミー捕食者とした実験で、在来イラガのほうが外来イラガよりも22.5倍も見つけやすいことが分かりました。一方、まゆの硬さについては、在来イラガが外来イラガよりも39倍も硬いことが分かりました。まゆの見つけやすさと硬さを統合して、野鳥にとっての餌の質として評価すると、外来イラガのほうが在来イラガよりも効率のよい餌だということが分かりました。つまり、捕食回避という観点からは、まゆの硬さの方がまゆの見つけやすさよりも重要だということです。それゆえ、野鳥は外来イラガのまゆを好んで捕食し、本学キャンパスからは大発生していた外来イラガが急速に減り、代わりに在来イラガが増えました。外来生物の栄枯盛衰には、在来天敵が大きな役割を果たすことが古くから想定されてきましたが、実証例は非常に少ないままでした。古川さんの研究は、在来天敵が生物の世界の安定に果たす役割を実証的に示したことで高く評価されました。

本学キャンパスに生育する樹木には、野鳥に捕食された古いイラガ類のまゆが今でも残されていますので、興味のある方は昼休みにでも観察してください。

受賞論文の筆頭著者の古川さん(中央)と共著者の中西さん(左)、本間さん(右)

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外来イラガ(左)と在来イラガ(右)のまゆ

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