モンゴル留学レポート

人間文化学研究科 地域文化学専攻  八木 風輝さん

モンゴル モンゴル国立大学

[モンゴルの地方で劇団員の見習いになる]

「劇場で働かせてください!」

 2014年の11月、モンゴル国の地方の劇場に行ったときのこと。もともと、モンゴル国に住む少数民族の音楽が大好きだった私は、この劇場というのはどんなところなのか知りたくてうずうずしていました。そして、知り合いのツテをたどり、劇場の劇団長に会うところまで行きました。そこで、冒頭の一言が出たのです。
 そんな経緯があって、私は2014年の9月から、交換留学でモンゴル国立大学に留学しながらも、11月からはモンゴルの地方の劇場「劇団員の見習い」としてフィールドワーク(現地の人と一緒に住んで調査をすること)をしています。劇団長は、いきなり日本人を劇団員にできないということで、見習いとして始めさせることになりました。当然給料は出ません。ただ、コネさえあれば、コンサートに出演できると聞いた私は張り切ってしまい、特に用事の無い日には、劇場に行き、彼らの練習中横に座って聞いていたり、自身でも音楽の練習をしています。
 さて、私が興味を持っているのは、モンゴル国に住んでいながらも、モンゴル人とは異なる「カザフ人」たちの音楽です。実はモンゴル国の人口の約5パーセント(15万人)はモンゴル人ではなく、カザフ人という人たちです。彼らは、イスラームを信仰し、言葉もカザフ語を話す人たちです。彼らの音楽は、ドンブラという2本弦で卵型の胴に棒を取り付けたような楽器を主に用いて演奏されます。
 このカザフ人たちは、現在どのような音楽を演奏しているのでしょうか。今回は、私の滞在しているモンゴル西部の町と、そこにある劇場での生活を簡単に紹介したいと思います。

[モンゴルで一番遠い県庁所在地]

バヤンウルギー県の県庁所在地・ウルギー郡

バヤンウルギー県の県庁所在地・ウルギー郡

 私の現在住んでいるところは、モンゴル国の最西部、首都から1700km離れたバヤン・ウルギー県というところです。その中でも、県センター(日本で言う県庁所在地)のウルギー郡というところに住んでいます。ここは、行政の中心地であるため、学校や県庁以外にも、遊技場、スポーツ会館などの公共施設が集まっています。人口は3万人ほどで、そのほとんどがカザフ人です。そのため、日常の会話はモンゴル語ではなくカザフ語で話しています(もちろんモンゴル語も通じます)。

[カザフ音楽を演奏する"モンゴル"の音楽劇場]

ドンブラという民族楽器を演奏するカザフ人

ドンブラという民族楽器を演奏するカザフ人

 そんなモンゴルの首都から遠く離れたところにも、音楽劇場があります。バヤン・ウルギー県立音楽ドラマ劇場というものです。1950年代に造られた歴史ある劇場で、カザフ音楽を中心に演奏を行う劇場でもあります。そこで、楽器(オーケストラ)、音楽、舞踊の3クラスに分かれて活動しています。活動内容としては年に十数回のコンサートや、地方巡業などです。現在はカザフ人を中心とした50人ほどの劇団員が働いています。
 その中で行われているのは、主に「授業」という、専門の音楽の練習です。イメージとしてはオーケストラの合同練習、舞台での劇の練習、声楽の授業、舞踊といったものです。それを平日の朝9時から12時、13時から17時まで行います。

11月のコンサートでの民族楽器オーケストラと歌手

11月のコンサートでの民族楽器オーケストラと歌手

 少し紹介すると、楽器クラスには26人が所属し、その全員がカザフ民族楽器オーケストラの演奏者でもあります。このオーケストラでは、バイオリンやフルートなど西洋楽器をほとんど用いていません。その代り、オーケストラのために改良されたカザフの民族楽器を中心に編成されています。楽器クラスの人は、民族楽器の演奏のレベルが非常に高く、カザフ音楽に関してわからないことがあれば、そこのメンバーに尋ねながら、私自身も民族楽器ドンブラの「授業」を受けています。
 音楽クラスでは、15人ほどが所属しています。ここのクラスは、雑談が多いですが、午前中はたいてい声楽の授業が行われています。私もそこに混ぜてもらい、楽譜を手渡されましたが、正直あまり楽譜を読んだことが無く、現在必死で楽譜にのる単語や、音符の意味を理解しているところです。
 最近では、11月のコンサートが終わり、モンゴルの旧正月(2月)、カザフの新年(3月:春分の日)のお祭りに向けてのコンサートの練習を行っていくとのことです。

[終わりに]

 私は、現在、フィールドワークという、現地の人々と寝食を共にして研究を行うことをしています。このフィールドワークというのは、本を読むこととは違って、人に会って、話を聞いて、そして私自身も異文化を経験するという、実体験に基づいたものだと言えそうです。そういう点で、自分の興味のあることを研究するというのは、非常に面白く、彼らに対する興味も尽きることはありません。
 ただ、異なる文化の人々と関わる以上、言葉が通じないことや関係がうまくいかないこともあります。本当にこれで正しいのだろうかという悩みを抱えて2か月ほどの間悩んだこともありました。しかし、今思うのはその悩みに真剣に向かい合って、解決する姿勢が大切なのではないかということです。そうすると、その悩み以上の楽しさや喜びというのがやってくるように感じています。
 これからは、劇場だけでなく田舎で遊牧民として生きている人々の音楽やライフヒストリーを聞いたりしたいと思っています。そこから、カザフ音楽というものがたくさんの人の手によって演奏されていることを少しでも理解できればいいなと思っています。