平成25年度入学式訓辞

平成25年度入学式学長訓辞

 本日ここに嘉田由紀子滋賀県知事をはじめ、来賓の方々をお迎えして、平成25年度公立大学法人滋賀県立大学ならびに大学院の入学式を挙行し、学部生618名、大学院生114名を迎えますことは、本学にとって誠に大きな慶びであります。
 新入生の皆さん、入学おめでとう。皆さんは本日から、それぞれが選んだ学部、学科、あるいは大学院研究科において学ぶことになります。これができるのは、皆さんの努力によるものでありますが、同時に、ご家族はじめ周囲の方々の深い理解と助力によることを、改めて心せねばなりません。
 さて本学は、平成7年4月に開学し、今年で19年目を迎えています。この間、全学あげて、実践的な教育をおし進めてきました。その教育を特徴付けるのが、「キャンパスは琵琶湖。テキストは人間。」というフレーズです。
 このなかの「キャンパスは琵琶湖。」という部分は、琵琶湖とその周辺、つまり滋賀県全域が皆さんの学びの場であると言っています。また「テキストは人間。」の部分は、その学びの場で生きている人々の生き方が教科書であると言っています。
 「キャンパスは琵琶湖。テキストは人間。」は、大変ユニークなフレーズですが、今日は、その意義を皆さんと一緒に考えてみましょう。
 そのためには、高校と大学の違い、特に学び方の違いを理解しておく必要があります。  高校までの学びには、学ぶ範囲が決まっていました。教科書の内容がその範囲で、これを超えて学ぶ必要はありませんでした。また、扱う問題には正解が用意されていました。定理や解法を使って、早く正解に到達しようと勉強してきました。その様子を、プールの中で、コースロープに沿って、ゴールを目指す水泳競技に例える人もいます。  一方、大学はどうでしょうか。
 先ず、学びの範囲ですが、大学の学びには範囲がありません。授業では、基本的な知識や理論と、それを応用した技術を学びますが、それをどこまで深め、あるいは発展させるかは皆さん次第です。
 次に、扱う問題に正解が用意されているかといいますと、一部の科目を除いて、正解は用意されていません。したがって、一体何が正しいのだろうかと考えるところから、問題への取り組みが始まります。
 では一体、なぜ大学ではそんな学び方をするのでしょうか。それは、大学のその先のことを考えるからです。皆さんが学部を卒業し、あるいは大学院を修了しますと、それから先は仕事を通して、一生涯、社会と関わっていくことになります。
 仕事を進めていくにあたっては、職場環境や内外情勢の変化から生じる、様様な課題を克服し、職業人としての自分を進化させねばなりません。また社会生活においても、あるいは家庭生活においても、次々と発生する課題に対応しなければなりません。これらの課題には、正解が用意されている筈もなく、決まった定理や解法もありません。
 ではどうしたらいいのでしょう。
 先人達は、一つ一つの課題に対して、周りの状況や将来を見渡しながら、自分でよく考え、人と協力して、一番合理的な解決策を見つけてきました。大学の学びは、これに倣っており、深い思考力や人々との連携、またそれらを踏まえての課題解決力など、社会で大事になる能力を養うことを目指します。これが、高校までのプールの中の水泳と違うところで、大学では、大海原へ乗り出すための訓練をすることになります。
 さて社会で大事になる深い思考力については、その大元となる基礎知識や理論、技術などを、本学では、全学共通基礎科目や、学部学科の専門科目、さらに卒業研究で学びます。一方、人々との連携や、課題への取り組みについては、演習科目やフィールドワークなどで、その導入部分を学びますが、こちらの方は授業だけでは十分と言えません。
 この点を補強するために、本学は、学生の地域活動、すなわち学生が学外に出て、地域の人々と一緒になって、様々な地域課題に取り組む活動を応援しています。その典型が「近江楽座」と呼んでいる、本学独特の学生活動です。
 「近江楽座」には、500名近い学生が参加し、23のグループに分かれて、それぞれ違った場所で、違った内容で活動しています。
 例えば、農家の人に教わりながら、休耕田で野菜を栽培し、販売するグループや、休耕田で菜の花を栽培し、菜種油を採ってバイオ燃料にするグループ、あるいは空き家を改造して、寄合い場所や店にして、地域の人と一緒に利用するグループがあります。
 またお寺や神社で廃棄されるローソクを作り直して、キャンドルイベントに活用するグループや、病院で長期入院の子供やお年寄りを支援するグループ、さらには東北大震災の被災地に出かけて、復興を支援するグループなどがあります。
 すべての活動は、授業外の課外活動として、年間を通して続けられています。いずれの活動も、地域が抱える課題に関わっていて、地域の人々に教わり、また自分で考え、人々と連携しながら、課題の解決に取り組んでいます。
 いかがですか、実際の社会で大事になる、深い思考力、人々との連携、さらに課題を解決する力などの、相当の部分が、地域活動で鍛えられていることがおわかりでしょう。「キャンパスは琵琶湖。テキストは人間。」のフレーズは、学びの場が学外に広がり、各地の人々から多くを学ぶ姿勢を的確に表現しているのです。皆さんも、このような地域活動に、積極的に参加されることをお勧めします。
 本学は、滋賀県や、彦根市をはじめ、自治体の協力を得ながら、地域活動をさらに推進していきます。また学部や大学院研究科の枠を超えて、地域活動の基礎的な知識や方法論を学ぶための副専攻を、一層充実していくことにしています。
 ところで本学は、大学としての任務である、教育、研究、社会貢献に、国際化という取り組みを加えて、国際的に通用する大学であるための努力をしています。この国際化ということと、今日お話しした地域活動とは、一見、まるで向きが違うように思えます。ところが実際には、両者は密接に関係しているのです。
 国際化で必要なことは、単に外国語による会話がうまいことではありません。一番大事なことは、物事を深く考え、しっかりした自分の意見を持って、人に接することです。地域活動の実践は、正に、ここに役立ってくるわけです。皆さんには、その上に強い語学力を重ねて、海外の人々と対等にコミュニケーションできるようになって欲しいと思います。
 幸い本学は、海外の16の大学と、交換留学の協定を結んでいます。これらの大学へ積極的に出かけて行って、国際的に通用する人間になることを目指しましょう。
 皆さんの熱意と日々の研鑽を期待して、訓辞といたします。

 平成25年4月4日

公立大学法人滋賀県立大学
理事長/学長 大田 啓一