平成31年度入学式式辞(2019/04/04)

平成31年度入学式式辞

   桜の花も咲き始め本格的な春の訪れを告げる本日ここに、三日月大造滋賀県知事をはじめ、ご来賓の方々をお迎えして、平成31年度・滋賀県立大学、並びに、大学院の入学式を挙行し、列席の副理事長、理事、副学長、各学部研究科長とともに、学部入学生640名、編入生12名、大学院入学生111名を迎えますことは、本学にとりまして、誠に大きな慶びであります。

   新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。

   また、新入生をこれまで支えてこられた保護者やご家族の皆さまに、滋賀県立大学を代表して、心よりお慶び申し上げます。

   新入生の皆さんがこの良き日を迎えることができたのは、皆さんのこれまでの努力は勿論ですが、支えてくださった保護者やご家族など、周りの方々の協力があったことも忘れないで頂きたいと思います。入学の喜びとともに、感謝の気持ちを、伝えてください。

   さて、皆さんが本学へ入学される今年は、「平成」から新しい元号「令和」へ変わる節目の年です。人生の節目と時代の節目が同じタイミングとなるこの年に入学される皆さんは、いま、これからの学生生活を思い描いて、希望に胸が一杯だと思います。

   本学初代学長で高名な動物行動学者の日高敏隆先生は、「人は動物と同じくみずからの力で育つものだ」と考えていました。そこで、大学の役割は、その人が自分の意思で育つのを助けることであり、本学は「人が育つ大学」であると宣言され、それが本学の伝統となっています。本学に入学された皆さんは、是非、このことを心に留めて、これからの学生生活を送って頂きたいと思います。

   さて、本学が誇る学びの特徴は、実験や実習、フィールドワークなどを多く取り入れていることです。大学のキャンパス内に留まらず、キャンパスの外へ出て学ぶことも多くあります。本学のモットーである「キャンパスは琵琶湖。テキストは人間。」は、そのことを言っています。日本で一番大きな湖である琵琶湖を抱く滋賀の地をキャンパスに、そこでの環境や自然、文化や歴史、人々の生活などをテキストとして、学んで頂きたいと思います。そして、壁にぶつかったり、悩みを抱えたりした時には、教員や職員に相談したり、学生支援室を訪れてください。大学は、全力で支援します。

   さらに、滋賀の地での学びについて、グローバルな視点から俯瞰する力を養うことが必要です。今の時代は、情報がインターネットにより国境を越えて瞬時に移動し、世界と繋がり、国際化が当たり前の社会となっています。皆さんは否応なく、国際通用性を身に付けることが必要不可欠の時代に住んでいます。そのため、本学では、海外留学や海外研修などの制度を設けて、海外での学びを体験されることを奨励しています。

   海外での学びというと、先日、引退を発表した大リーガーのイチロー選手は、引退会見で次のようなことを述べています。

「アメリカでは僕は外国人ですから。このことは、外国人になったことで、人の心を慮ったり、人の痛みを想像したり、今までになかった自分があらわれた。

この体験というのは、本を読んだり情報をとることはできたとしても、体験しないと自分の中からは生まれない。孤独を感じて、苦しんだこと多々ありました。ありましたけど、その体験は未来の自分にとって、大きな支えになるだろうと、今は思います。

だから、辛いこと、しんどいことから、逃げたいと思うのは当然のことですが、エネルギーのある元気なときに、それに立ち向かっていく。そのことは、すごく、人として重要なことではないかなと感じています。」

   これがイチロー選手の述べたことです。

   私の留学した経験からすると、文化や習慣、環境の違う異国の地において、全く違った文化圏で育った人々と出会い、いろいろなことについて時間をかけて自由に議論することによって、自分自身の常識の殻を破ることができ、ひとまわり大きな成長へつながると実感しました。そして、それは、皆さんのようにエネルギーがみなぎっている若い時にこそできることだと思います。皆さんも、是非、海外での学びという選択肢を学生生活の計画に入れることをお勧めします。

   このような多様な学びを通して、幅広い教養と、いろいろな情報をもとに論理的に考えて意義のある結論を導き出す「知」と、その「知」を行動へ結びつける「実践力」を養ってください。このことは、大学時代のみならず、卒業後においてますます重要になると考えます。

   そこで、これからの学生生活で心がけて頂きたい、二つの「じりつ」の言葉を送りたいと思います。

   一つ目の「じりつ」は、自分で立つと書く「自立」です。広辞苑には、「他の援助や支配を受けず、自分の力で判断したり身を立てたりすること。ひとりだち。」と説明されています。

物事について、自分自身の力で判断するには、どのようにすればよいでしょうか。それには、いろいろなものの見方や考え方を知ることが重要です。一つの事柄を見ても、他の人は、自分と同じように見たり考えたりしているとは限りません。

   本学の授業では、グループで議論したり発表したりすることがあります。皆さんの顔がひとりひとり違うように、意見も違って当たり前です。是非、自分自身で考えた意見を述べ、人の意見も聞いて、お互いを認め合い、判断できる力を磨いてください。

   二つ目の「じりつ」は、自分を律すると書く「自律」です。広辞苑には、「外部からの支配や制御から脱して、自身の立てた規範に従って行動すること。」と説明されています。その規範とは、簡単に言うと、人としての倫理観だと考えます。自分自身のあるべき姿を考えて、みずからの行動を律するための倫理観を持つことが必要です。

   私の好きな画家、ゴーギャンが、晩年、南太平洋のタヒチ島で描いた、最高傑作と言われる絵には、次の言葉が記されています。「我々はどこから来たのか、我々は何者か、我々はどこへ行くのか」と、これがこの絵の題名でもあります。将来訪れるであろう人工知能と共存する世界、すなわち、皆さんが活躍する将来の世界を考える時、まさに、この言葉は、我々が現在真剣に考えなければならない重要なことを暗示していると考えます。

   その重要なことは、倫理観です。将来は人工知能、すなわち、AIが人間を追い越すと言われていますが、AIが倫理観を持ち合わせているとは思えません。是非、自分自身にとって倫理観とは何かを考えて、自分自身をみずから律してください。

   さらに、大学院へ進学される皆さんへは、もう一つ心がけて頂きたいことがあります。それは、大学院へ進学し、専門分野をさらに極めるわけですが、研究の仕方、方法論もよく学んでください。研究の方法論を学ぶことによって、将来の時代が求める新しい学問分野を切り開かれることを願っています。

   入学と言う新しい出会いの中で、二つの「じりつ」を心がけ、多くの仲間と議論し、切磋琢磨することにより、充実した学生生活を送られることを願って、式辞とします。

平成31年(2019年)4月4日

滋賀県立大学 学長 廣川 能嗣