平成26年度学位記授与式式辞

平成26年度学位記授与式式辞

 本日ここに、三日月大造滋賀県知事を始め、来賓の方々をお迎えして、平成26年度滋賀県立大学、ならびに大学院の学位授与式を挙行できますことは、本学にとって誠に大きな慶びであります。

 学部卒業生、大学院修士ならびに博士前期課程修了者の皆さん、卒業・修了おめでとうございます。また皆さんを支えてこられた保護者とご家族の方々に、心からお祝い申し上げます。

 滋賀県立大学は、琵琶湖とそれを囲む県全域をキャンパスとして、そこに生きる人々の智恵に学ぶ、実践的な教育を、授業の中で行ってきました。また多くの学生が、滋賀県各地において、近江楽座や自主的な活動として、実際の地域課題に向き合ってきました。この中で、自分が果たす役割をしっかり考えながら、地域の人々と一緒になって、課題解決に取り組んできました。

 活動の場は、滋賀県内だけではありません。本日の卒業生のほとんどの皆さんは、4年前の東日本大震災の直後に本学に入学しました。その皆さんの中には、震災直後から今日に至るまで、強い意志をもって、被災地の復興を支援し続けてきた多くの仲間がいます。

 滋賀県内においても、大震災の被災地においても、皆さんは様々な課題に主体的に取り組み、その中で自分が為すべきことを深く考え、それにしたがって行動してきました。

 この主体的な思考と行動の経験が、役に立つ時が来ます。いつ来るのでしょうか。皆さんが卒業・修了後に向かう就職先や進学先において、直ぐにやって来ます。

 就職先や進学先では、「あなたは何のためにここにやって来たのか」、「あなたは何のためにそこに居るのか」、と問われます。言葉に出して言われなくても、そこのところがしっかりしないと、指示待ち人間になって、仕事や研究が身につかないことに自分で気付きます。

 ある立場にあって、その人が果たすべき任務や役割、これを使命、あるいはミッションと言っていますが、自分の使命を明確にして、それを自覚した行動をとることが必要となるのです。

 この使命を自覚することの大切さを、昨年12月、本学の「琵琶湖塾」の講師として来られた、株式会社マザーハウスの若い社長、山口絵里子さんから聞きました。皆さんの中にもその話しを聞かれた人がいると思います。

 山口さんは、今、バングラデシュでバッグを作り、日本国内10数カ所の直営店で販売しています。

 皆さんは、バングラデシュがどんな国か知っていますか。この国の面積は北海道くらいで、そこに1億5千万人余の人々が住んでいます。人口密度の高い途上国です。

 実は、本学の海外学習科目の「国際環境マネジメント」は、この3月、バングラデシュで実施する予定でした。しかし最近の治安についてバングラデシュの協定大学とよく協議した結果、これを中止しました。本学の参加希望者23名は、大変残念がりましたが、治安はよくありません。

 そのバングラデシュの大学院に、山口さんは留学し、現地での体験を通して、この国の人々のために役に立とう、と決心したそうです。そして大学院修了後に、株式会社マザーハウスを設立しました。24歳の時でした。

 その後、大変な苦労を重ねながらも、現地の従業員と一緒に働き、現地の素材を使って、高品質のバッグを作っています。バッグには勿論[メイド・イン・バングラデシュ]の表示がついています。

 その山口さんを支えてきたもの、それは「開発途上国から世界に通用するブランドをつくる」という信念でした。これを自分の使命、ミッションとして自分に課し、安い低品質の素材を使わず、人気ブランドの真似をせず、オリジナルデザインにこだわり続けてきたと言います。またこの考えをバングラデシュの従業員達と共有し、彼らに自信と誇りを持たせたのだそうです。

 バングラデシュで起業された山口さんとは舞台が違いますが、卒業生・修了生の皆さんにとっても、これから直面する課題や困難を乗り切るには、しっかりした自分の使命の自覚が必要となります。

 その点、皆さんには、本学で主体的な思考と行動を鍛えた経験があります。これを十分に活かし、就職先において、あるいは進学先において、自分の使命を考え抜いてください。そしてそれを行動に移して下さい。

 その使命は立場によって違ってくるものです。皆さんがこれから何年かたって、グループのリーダーとなったときにはグループとしての使命を考えてください。さらに時がたって、組織の重責を担う立場になったら、組織の使命を考え抜いていただきたいと思います。

 ところで、もしも本学が、本学の使命について尋ねられたならば、それは「地域に根差し、地域に学び、地域に貢献する」ことです、と答えます。その地域では、市民レベルの国際交流が盛んになってきました。地域の企業は、国際的な取引や連携、さらに海外進出を進めています。また行政は海外者への対応に取り組んでいます。

 このような地域の現状に応えるために、本学は、国際的に通用する見識と、思考力と、実践力を身に付けて、地域の発展に貢献する若者を、今後とも世に送り出していく所存です。

 皆さんの大いなるご活躍、ご発展を祈って、式辞といたします。


平成27年3月21日

公立大学法人滋賀県立大学
理事長/学長 大田 啓一