平成27年度入学式訓辞

平成27年度入学式訓辞

 本日ここに、三日月大造滋賀県知事を始め、来賓の方々をお迎えして、滋賀県立大学ならびに大学院の入学式を挙行し、学部生・大学院生合わせて731名の新入生を迎えられたことは、本学にとって誠に大きな慶びであります。

 新入生の皆さん、入学おめでとう。

 皆さんが今日から始める学びは、将来、働くことを通して社会に貢献するための能力を身に付けることが目的です。その学びができるのは、皆さんの努力によるものですが、同時に、保護者やご家族の支えによるものであることを忘れてはなりません。

 さて、私達をとりまく自然環境も社会環境も、今、かつてない大きな変化に直面しています。

 皆さんは「地球温暖化」という言葉を耳にし、氷河が溶けていく映像を目にしたことがあると思います。地球温暖化については、世界の800名を超す研究者が、膨大なデータを4年がかりで点検して、温暖化は確実に進んでいると結論しました。地球全体の環境が今、大きく変化しようとしています。

 その地球上では、情報とお金と物資が国境を越えて行き交い、少し遅れて人の交流が盛んになりました。グローバル化の進行です。今日、世界のどこかで、突発的な出来事が起これば、その影響はたちまち世界各国に及びます。そんな時代に私達は踏みこんでいます。

 一方、国内においては、人口の移り変わり、人口動態といいますが、これに大きな変化が起こりつつあります。人口動態は、産業政策、雇用政策、社会保障政策、教育政策など、あらゆる政策の基礎となるものです。わが国の人口は、すでに2008年から減少局面に入っています。その影響は、特に地方において強く現れてくるとみられています。

 以上見てきたように、私達は今、国内においても、国際的にも、地球環境においても、大きな変化に直面しています。このような変化を、私達は過去に経験したことがありませんから、そこから生じてくる課題を解決する答えを持ち合わせていません。したがって、自分たちの力で何とかしなければなりません。

 そのためには、様々な新しい課題を、正しく理解することから先ず始めます。そのうえで、どうしたらいいかを自分の頭で考え、その考えを周りに伝え、多くの人の協力を得て、課題解決への取り組みを進めていくことにします。

 皆さんには、今日から、そのための学びに加わっていただきます。

 学びは身近なところから始めますので、滋賀県について見てみましょう。滋賀県は、近畿6府県の中で、唯一の人口増加県でした。しかし昨年後半から、県外への人の流出によって人口減少が始まりました。

 県内から大都市、特に首都圏の都市への人口流出は、豊富な働き口を求めての転出が主な原因です。つまり、若くて、働けて、これから子供が持てる年齢層が出ていくことになります。その結果、私達の周りでは人口減少が、少子化と高齢化を伴って進んでいきます。しかしそこに残った高齢者層も、後が続かないために、まもなく減少していくことになります。それによって、どんな具体的な課題が出現するのでしょうか。

 皆さんの学びでは、滋賀県内の地域社会をフィールドとして、そこに実際に現れている課題を扱います。極めて実践的なやり方です。

 本学はそのための教育プログラムを、今年度、大幅に充実しました。

 新入生の皆さんは、先ず、地域の課題について、基礎的な知識や方法論を学ぶところから始めます。このために、新設の地域基礎科目と呼ばれる科目を、全員が履修します。

 この科目では、教員に加えて、実際に各地で活動している実践家から学びます。また企業の経営に現れた課題については、県内企業の社長さんから学ぶことになります。

 地域基礎科目の履修がすんだら、各学部において学部専門科目を体系的に履修し、地域課題の扱いを掘り下げていきます。

 また学部横断コースである副専攻においても地域課題を扱います。この中で課題の深い理解力、思考力、実践力を鍛えます。大学院にも大学院生用の副専攻があります。この副専攻は社会人にも開かれていますので、幅広い意見を聞くことができます。

 このように徹底した地域に向きあう教育は、全国的に見て大変ユニークであり、「地域に根差し、地域に学び、地域に貢献する」ことを建学の理念とする本学に相応しい取り組みといえます。

 私達がこのような学びを進めていく上で、常に心掛けておかねばならないことが二つあります。

 一つは、地域の課題を扱いながらも、広い視野でこれを眺めるということです。上空から見渡すような広い見方、これを俯瞰的な視点と言いますが、これが大事です。この視点を持てば、地域の課題に含まれる、県内共通の側面や、近隣府県、さらには我が国全体に関わる側面を見出すことができます。

 その結果、地域課題を正しく評価でき、課題解決の知見やノウハウを、県下全域に、あるいは国内各地に広げ、取り組みの輪を大きくすることができます。

 もう一つ心しておくことは、地域社会は既にグローバル化の影響を受けているということです。市民は市民レベルで、いろいろな国との交流を進めています。企業は国際的な取引を増やし、海外への進出を進めています。行政も海外者への対応を急務としています。

 そのような地域社会が望むのは、海外とつき合える人物です。私達が、地域に貢献しようと思えは思うほど、国際的に通用する学識と見識が、ますます必要になるということです。

 こうした状況は、皆さんの学びが、本学と周辺地域のみに留まることを許しません。本学には交換留学や、海外研修、異文化理解プログラムなど、多様な海外交流プログラムがあります。皆さんにはこれらの機会を活用して、在外学習に大いに励んでいただきたいと思います。

 皆さんの力いっぱいの研鑽を期待して、入学の訓辞といたします。

平成27年4月7日

公立大学法人滋賀県立大学

理事長/学長  大田啓一