平成25年度学位記授与式式辞

平成25年度学位記授与式式辞

 本日ここに、嘉田由紀子滋賀県知事を始め来賓の方々をお迎えし、平成25年度公立大学法人滋賀県立大学、ならびに大学院の学位記授与式を挙行できますことは、本学にとって誠に大きな慶びであります。
 学部卒業生、大学院博士前期課程ならびに修士課程修了者の皆さん、卒業・修了おめでとうございます。また皆さんを支えてこられた保護者ならびにご家族の皆様に、心からお祝い申し上げます。

 今年度の卒業生・修了生673名の80%にあたる540名の皆さんは就職し、職業人としての一歩を踏み出すことになります。
 皆さんを待っている職場は地域社会や国内情勢の影響を強く受けますが、それと同時に、急速なグローバル化の進行によって、あらゆる面で、世界の国々の影響を受けることになります。そのために皆さんには世界を俯瞰する視点をしっかり持って、この国、自分の職場、さらに自分自身の立ち位置を常に確認するよう努めていただきたいと思います。

 さて多くの国々に影響を及ぼす、いわば世界的な事象が最近目立って増えてきました。それはこれまで経験しなかった異常な気象であり、地球規模の気候変化です。
 地球の気候システムが変調しつつあることは、気候変動に関する政府間パネルIPCCが早くから指摘していました。IPCCは現在、第五次報告書の作成にかかっています。日本の研究者も含め、800名以上の研究者が、三つの作業部会に別れて、4年の歳月をかけて作業を進めています。そのうちの第一作業部会の報告書が昨年九月に発表されました。

 報告書は、世界各地の観測結果を記述した膨大な資料と報告を吟味し、整理して、その結論として「気候システムの温暖化は疑う余地がない」と断定しています。
 この報告書の大きな特徴は、地球温暖化における海洋の役割を明確にしたことです。それによりますと、温暖化の熱エネルギーの90%以上が海洋に吸収されて、海洋を暖めました。
 これは実に厄介なことなのです。何故かと言いますと、海水温の上昇は水の蒸発と大気の上昇を活発にし、両者は一緒になって強い台風を生みます。また台風でなくとも大量の水蒸気は激しい降雨となって地上に注ぎます。そのうえ一度暖められた海洋はなかなか冷めませんので、影響が長く続くことになります。

 気候システムの温暖化をもたらした原因については、報告書は95~100%の確かさで、人間活動のせいだと断じており、排出された二酸化炭素の増加が最大の原因だと結論しています。
 また今後の見通しについては、このままでは速いテンポで地球温暖化は進み、極端な高温、極端な降雨、あるいは干ばつが頻繁となり、海水面は上昇し、海氷は消滅すると予測しています。

 皆さんはここ一、二年間の間に、この彦根も含めて滋賀県やあるいは日本のあちこちで台風に伴う大きな洪水が発生したことを覚えていると思います。異常な高温や大雪も各地で出現しました。日本と同じように世界各国で強い台風や洪水、異常な高温と寒波、熱波と干ばつなど極端な気象が頻発しました。またそれに伴う膨大な人的・物的被害が発生したことも記憶に新しいところです。このようなことがこれから頻繁に起こるであろうとみられています。

 被害の大きさに関しては昨年9月に襲来した台風18号一つを取ってみても、滋賀県では道路や河川などで900カ所の被害があり、復旧におよそ100億円かかると嘉田知事は議会で述べておられます。また農林水産関係では約47億円の被害が見込まれるとされました。
 また環境省は極端気象によって今後見込まれる我が国での被害を推定しており、洪水被害だけでも毎年6800億円に上るであろうと、先日発表しました。
 世界的にはどうかと言いますと、これはIPCC第二作業部会が来週横浜で開かれる総会で発表しますが、毎年の被害総額は148兆円という数字が示されるようです。わが国の国家予算の一年半分にも相当する金額です。

 いずれにしても私達は地球温暖化や気象激変の時代に踏み込みつつあります。それ故に、これらの影響を最小限に食い止め、併せて温暖化を抑制し、あるいは一定の適応策を採るなど、あらゆる対応が必要になります。
 本学は教育の理念として「環境と人間」を掲げ、環境に調和的な人の生き方や社会ならびに産業のあり方を考え、かつ実践できるように授業科目を整えてきました。環境に調和的な社会の実現には、このような学習成果に加えて、人々の連携を作り出す力が必要です。
 皆さんは実践的な授業や様々な地域活動を通して、多くの人々と連携して課題を解決する力を鍛えてきました。この力がこれから役に立ちます。
 気候変化への様々な対応には、国内外を問わず多くの人とつながって、英知を結集することが不可欠です。このために本学で鍛えてきた力を大いに発揮して下さい。

 皆さんはそれぞれの職場において日々遭遇する職業上の課題をこなす一方で、地球的課題への対応についても、これは本学を卒業・修了した者の天職だと考えて、積極的に取り組まれるよう願っています。
 皆さんの大いなるご活躍、ご発展を祈って、式辞といたします。

平成26年3月21日

公立大学法人滋賀県立大学
理事長/学長 大田 啓一